映画『ザ・メニュー』感想

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「予約がいっぱいで滅多に来れないと噂の高級レストラン。

やってきたのは若いカップル。

嬉しさでウキウキ落ち着かない男に対し、斜に構えた冷静な女は供されるメニューの異常さに気づき始める…」

というあらすじを読み、『ジョジョの奇妙な冒険』4部を愛して止まない自分は

「トラサルディのエピソードみたい!気になる!」

と鑑賞を楽しみにしてました。

レストランの店内というソリッドシチュエーションスリラーという下味の上に乗る、ブルジョワ風刺、不条理コメディ、さらにはリアル鬼ごっこなど多様な要素。

それらを抑制の効いた恐怖演出でまとめた今作は、さながらコース料理を思わせる。

ブニュエル的なコンセプトをヨルゴス・ランティモスやシャマランを思わせるアプローチを駆使して表現しているユニークさが魅力の作品だ。

(※今作で某人物が「天使」の姿で殺されるのは『皆殺しの天使』へのオマージュではないだろうか)

主演のアニャ・テイラー=ジョイは『ウィッチ』や『スプリット』に続き、今作で「異常な殺人が行われる現場から逃れた唯一の生き残り」女優としての立ち位置を確立した感がある(そんな類型ある?)

もう一人の主役である、セレブ客たちを恐怖に追い込む冷酷なシェフを演じるのはレイフ・ファインズ。

以下が彼の行動理念と動機だ。

「私は若い頃、純粋に人を楽しませ喜んでもらうために料理を作っていた」

「それがいつの間にか、私は金持ちどもの虚栄心を満足させるためだけに、心身をすり減らして働き続ける、マシーンと化してしまっていた」

「奴らはSNSでの見栄えと、ステータスのために料理を利用しているだけだ。その証拠に、私が丹精込めて作った料理のことなど、奴らは全く覚えていない」

「私の料理を侮辱する愚かなブルジョワどもと、奴らに屈して信念を曲げた自分自身を、まとめて地獄に落としてやる。皆殺しにすることで、初めて私の畢生の『作品』は完成するのだ」

そんな手前勝手な論理と執着と誇大妄想の実現を図る異常性、そして緻密な計算のもと行われるえげつない行為は、『SAW』のジグソーを思わせる。

今作の他にも『プラットフォーム』やドゥニ・ヴィルヌーヴの『華麗なる晩餐』など、

・不条理劇
・露悪的なまでに戯画化されたブルジョワ風刺
・食事

という3つの要素は食い合わせが良い。

スリラーの皮を被った苛烈な風刺コメディである今作のプロデューサーは、アダム・マッケイとウィル・フェレル。

『俺たちニュースキャスター』
『俺たちスーパーポリティシャン』
『アザーガイズ 俺たち踊るハイパー刑事』

などで様々な分野の風刺コメディを作ってきた彼らによる『ザ・メニュー』は、事実上の『俺たち』シリーズではなかろうか。

("俺たち〜"というタイトルは邦題だけだが)

個人的にとりわけ印象に残ったのは、劇中で供される料理の一品一品をありがたそ〜な雰囲気でありがたそ〜〜なコメントと共に大写しする厭な笑い。

製作陣の意地の悪さがこもっており実に良い。

まとめ


私なんかも外食するとついつい "ばえる" 写真を撮ろうと時間を使い、料理の温かさを台無しにしてしまう事がある。

この作品は料理に込められた熱意を踏みにじる人々を諫めるために

「料理を大事にしない子のところにはジュリアンシェフが来ちゃうよ!」

というメッセージを含んだ、大人のためのおとぎ噺なのかも知れません。

料理や料理を作ってくれる人に対する己の姿勢を見つめ返して気まずい思いを抱くことができ、かつそれを説教臭くしすぎずブラックな笑いでまとめあげた点で、『ザ・メニュー』は良作でした。

おすすめです!

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