映画『灼熱の魂』レビュー

映画

作品情報

灼熱の魂

(原題:Incendies)

  • 製作:2010年/カナダ/131分
  • 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
  • 原作:ワジディ・ムアワッド『焼け焦げるたましい』
  • 脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
  • 撮影:アンドレ・トゥルパン
  • 編集:モニーク・ダルトーネ
  • 音楽:グレゴワール・エッツェル

予告編

レビュー

こんにちは、こんばんは。

臘月堂、主人の南(@lowgetsudou)です🌙

「愛憎と善悪はあざなえる縄のごとし」

このテーマは、今作や『プリズナーズ』『ボーダーライン』等に見られるドゥニ・ヴィルヌーヴ作品の共通点だ。

劇中で描かれるムスリムとキリスト教右派の内戦は、

双方が陥った「自らが信奉する価値の絶対化」という危険な思想に端を発する。

主人公の一人である女性とその子が離れ離れになった原因もそこにあるが、今作ではよりテーマが深掘りされる。

"塞翁が馬"とはけだし名言で、

深すぎる愛情から生まれた、
深すぎる憎しみに流されるうち、

皮肉といっては皮肉すぎるとんでもない状況に追い込まれる女。

(一切ネタバレが許されないため抽象的な表現しかできずもどかしい!)

こうしてイーストウッドの『許されざる者』同様、

「これが善」
「それは悪」
「善の原因は善」
「悪の原因は悪」

と物事を二項対立的に単純化する事への疑問が語られるが、

それを訴える上で「一神教VS一神教」という図式はこれ以上ない格好の題材だ。

また、

「死は物語の終わりでなく必ず意味を残す」

という主旨のセリフは後年の『メッセージ』にも通じる部分。

そして登場人物がなかなか真相に辿り着けないもどかしさが、

尺の長さ自体や最低限の編集、

無音や環境音を重視した写実的な演出によく現れている。

主人公たちの旅が苦難の連続となる事は、序盤に登場する数学の先生のセリフで暗示された通りだ。

「君たちが今まで学んできた数学は、
明快で決定的な問題への、
明快で決定的な答えを求めるものだった。

ここから先は大きく変わる。

答えのない問題へと続く、
解決不能な問題に直面するようになる。

努力しても無駄だと言う人もいるだろう。

想像を絶するほど複雑で難解な問題を前に、自分を守る術はなくなる。

純粋数学にようこそ。

"孤独の王国"へ」

前述の、答えが出せないテーマに対する禅問答をつづる上で、

ある程度われわれ視聴者を翻弄し疲れさせる演出は必要不可欠だ。

デヴィッド・フィンチャー監督が『ゾディアック』制作時に同じ意図と方法を選んだ事を思い出す。

真実を突き止めるため主人公たちが辿った苦労を追体験しただけに、

『LOOPER』と同様

「怒りの連鎖を断て」

というメッセージは重みを持って胸にのしかかってきた。

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