映画『メアリーの総て』レビュー

映画

作品情報

メアリーの総て

(原題:Mary Shelly)

  • 製作:2017年/アイルランド・ルクセンブルク・アメリカ/121分
  • 監督:ハイファ・アル=マンスール
  • 出演:エル・ファニング/メイジー・ウィリアムズ/ダグラス・ブース/ベル・パウリー/ベン・ハーディ
  • 脚本:エマ・ジェンセン/ハイファ・アル=マンスール
  • 撮影:ダヴィド・ウンガロ
  • 編集:アレックス・マッキー
  • 音楽:アメリア・ワーナー

予告編

レビュー

こんにちは、こんばんは。

臘月堂、主人の南(@lowgetsudou)です🌙

メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』上梓から200年。

そして英国で女性参政権が認められた第4回選挙法改正から100年という点でも、

2018年はイギリスのフェミニズムにとって区切りとなる年と言えます。

「女には喪失や死や裏切りを描けないとでもお思いですか!?」

女性を公然と抑圧する社会に向かって啖呵を切るエル・ファニングのなんと凛々しいことか。

キーアイテムとして扱われるフュースリの『夢魔』ですが、こちらは昨年末の盛況が記憶に新しい "怖い絵展" にもやってきたロマン主義絵画の傑作です。

眠る女性の上にしゃがみこむ悪魔の形相が恐ろしいですね。

17世紀〜19世紀における自然科学の著しい発達は、「理性で全てを解決できる」と人間を思い上がらせるに至りました。

バカな!

現実より夢を。
客観より主観を。
合理より非合理を。
論理より情動を。

それがロマン主義のコンセプト。

メアリーが若き身空で経験してきた死、愛、裏切り、絶望、

これらは「理性の光」だけでは表現しようのないものばかり。

当のフュースリまでが

「賢い女は嫌いだ」

と言い残したほど女性差別的な社会において、

メアリーが自分の中に渦巻く感情や思考を社会に叩きつけたことは、

映画で描かれるように負荷の高い試みでした。

『メアリーの総て』は女性の台頭を称揚すると同時に、

19世紀初頭イギリスにおける合理主義〜科学万能主義に対するパンクスピリット、つまりロマン主義を謳い上げる映画でもあるのです。

科学技術という人間の主観が挟まれない冷たい世界。

対して人間の心の内面や不安感を強調したゴシックホラーという方法。

ミルトンから連綿と続く創造主VS被創造物の確執というテーマを土台に、

それらの相反するメソッドを折衷した点でも『フランケンシュタイン』は革新的でした。

(※注:それまで神や妖怪の専売特許であった自然現象の原因が解明されていき、

顕微鏡の発展で細菌という目に見えなかったはずの生物を観察できるようになり、

さらには電気の存在が明らかにされた時代。

フロイトやユングによって精神医学が研究され、

シュニッツラーが『アイズ・ワイド・シャット』の原作を著すなど、

人々が抱いた「見えないもの」への興味は合理への反発という経路だけでなく、

合理への追求から生まれた事実も記しておきます)

齢18にして小説の形を借りた「怪物」を産み落とした女性を描く上で、

肩に力が入ったのか?真面目すぎたのか?

映画としての出来は生硬と言わざるを得ません。

しかし、宗教的にもジェンダー的にも抑圧的なサウジアラビア社会において、

初の女性映画監督として活躍するハイファ・アル=マンスールだからこそ作り得た、社会的に意義のある作品です。

『ドリーム』『ワンダーウーマン』『エクスマキナ』

あるいは

『プロメテウス』『エイリアン:コヴェナント』『ブレードランナー2049』

などと併せての鑑賞をおススメします!

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