映画『プリズナーズ』神の不幸でメシがウマい

映画

こんにちは、こんばんは。

臘月堂、主人の南(@lowgetsudou)です🌙

今日は『プリズナーズ』の話。

作品情報

プリズナーズ

(原題:Prisoners)

  • 製作:2013年/アメリカ/153分
  • 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
  • 出演:ヒュー・ジャックマン/ジェイク・ジレンホール/ポール・ダノ/ヴィオラ・デイヴィス/メリッサ・レオ
  • 脚本:アーロン・グジコウスキ
  • 撮影:ロジャー・ディーキンス
  • 編集:ジョエル・コックス
  • 音楽:ヨハン・ヨハンソン

予告編

ミルトン『失楽園』

『プリズナーズ』について話すため、『失楽園』のあらすじを先にご紹介↓

……

神に対するクーデターに失敗し、地の底に落とされた大天使ルシファー。

彼は悪魔の王サタンとなり、捲土重来を誓った。

暗く冷たい地獄から地上を見上げれば、

地獄で不遇をかこつ自分をさしおいて、神の寵愛を受ける者たちがエデンの園と呼ばれる楽園で幸せに暮らしていた。

人間たちである。

サタンは人間たちへの嫉妬に狂い、逆恨みを晴らすための妙案を講じる。

ヘビに姿を変え、エデンの園への潜入に成功したサタン。

そこには初めて作られた人間、アダムとイブがいた。

サタンの言葉巧みな誘惑にたぶらかされた二人は、

とうとう神から食べることを禁じられた知恵の実を食べてしまう。

まんまと神に反逆"させられた"二人は、容赦なく楽園を追い出された。

この時から人間は、永遠に困難と苦悩の中を生きる運命を背負ったのだった。

しかし。

もとより人間へのねたみを晴らすという行為は、サタンにとって副次的な目的に過ぎなかったのである。

目的の主眼はあくまでも神へのリベンジ。

「愛する存在に裏切られる苦しみを味わえ」

かくしてサタンの復讐は成し遂げられたのだ。

レビュー

『失楽園』をベースとした、"造物主に対する反乱 " の物語は数えきれないほど存在する。

『フランケンシュタイン』『エイリアン・コヴナント』『エクスマキナ』などなど。

『プリズナーズ』もまた、神と悪魔の確執、そして人間の自制心と信仰心の称揚を謳った作品だ。

ユダヤ・キリスト教において、裁きという行為は神にしか認められない

人間はどんなに理不尽で、つらく悲しい出来事に際しても、『ヨブ記』の主人公ヨブのように黙って耐えるしかないのだ。

もしも人間が身の程をわきまえず、敵に復讐を果たそうものなら、必ずその者には神の罰が下る。

『オンリー・ゴッド』のライアン・ゴズリングは両腕を切り落とされ、

『トゥルー・グリット』で父の仇を殺害した少女は毒ヘビに噛まれて片腕を失い、

『セブン』でジョン・ドゥー=サタンの罠にかかったブラッド・ピットも、神の名のもとに法の裁きを受ける結末を迎えた。

復讐の鬼と化した本作の主人公(ヒュー・ジャックマン)もまた、ラストシーンの後で同じ道をたどるのかも知れない。

さらに、キリスト教における神の絶対性を強調するツールとして噛ませ犬の役割を担わされている人物がいる。

もう一人の主人公、ロキ刑事(ジェイク・ジレンホール)だ。

異教である北欧神話の神の名を持ち、

キリスト教と犬猿の仲とされるフリーメイソンの指輪をつけ、

カトリックの神父をボコボコにし、

中国を起源とする干支に興味を示す。

これら様々な要素によって、ロキ刑事はキリスト教の精神と乖離した存在として描かれる。

そして彼の捜索は、

いつも後手に回り、重要な見落としを重ね、核心になかなか近づけない。

これは

「キリストと父なる神への信仰でしか人間は救済されない」

という意思の表れだ。

(ギレンホールは『ゾディアック』でも真実にたどり着こうとあがき苦しむ人物を演じている)

さらにゴールディング『蝿の王』で悪魔ベルゼブブの象徴として使われた豚の頭部が本作に登場し

「この部屋が地獄である」

ことを暗喩するなど、随所に散りばめられた舞台的な記号を探す楽しみには事欠かない。

迷路はダンテ『神曲』地獄篇の世界を表したものか。

ルック面では強烈な逆光や壁に映る雨だれなど、控えめながらも撮影監督ロジャー・ディーキンス節がそこかしこに光るのも見どころ。

Radioheadの"Codex"で陰鬱さに拍車をかけるラストまで高密度の時間が続く、ヘヴィな題材を好むドゥニ・ヴィルヌーヴ作品の中でも1〜2を争う重厚な作品だ。

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